ラジュはベッドに横になり、置き物のよう
青白く、血液に鉄分がないように見える
薬剤師のアナミアが言う
アニミア(貧血症)よ。母親は聞き慣れない
ラテン語の響きにうろたえる
今日にも死んでしまうのかもしれない、そのように見える
自然の命というのはなんとはかないものか
庭ではチョウたちが舞っている
その命は二週間。チョウたちは
ハニーサックルの香り漂う
格子棚のところに群がって
羽を閉じたり開いたり
チョウたちはまもなく
死んでいく、だからこの地上でいま
最高の時を過ごそうとしているのだ
わたしたちにも
同じ英知があったならと思う
悪霊がつく
鉄の階段が
曲線をえがいて、わたしの部屋へと
通じている
そこはものすごく暑く、ブリキの屋根は
溶けそうに熱くなっている、だから
わたしは下の部屋で、タイルの床の上
竹の椅子にすわって
うちの小さな子のことを
夕べ食べものを吐いた子のことを考えている
その子の母親は「ブート」かもしれないと言う
小さな男の子にとりつく悪霊のこと
それは夏の始まりで
井戸の水を沸かさずに飲んだらだめ
そうわたしは言う
その子の母親は賛成するように
うなづく  
無気力が彼女をおそう
自分も取り憑かれてはいまいか
と案ずる
もくじ
Contents